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堀内 亜依
堀内 亜依
マーケティング開発部
マーケティングインテリジェンスグループ
マネージャー
2007年サッポロビール(株)入社。営業管理部門を経て2016年よりデータマーケティングを担当。社内外のデータを活用し、「個客」との良好な関係づくりを可能にするコミュニケーションについて探索・研究・実践することで、全社的なマーケティング能力の向上を目指している。現在はプライベートDMPの構築・活用や全社のデジタル化推進などを担当。

ワインで実行したプル型マーケティングが、
ビールにも活きる時代に

私は2007年に新入社員としてサッポロビールに入社し、最初は当時近畿圏本部と呼ばれていた地区本部のマーケティング部でワインを担当していました。各地区本部のマーケティング部の責務は営業部署の計画管理や予算管理、およびエリア毎の販促を計画・実行することで営業支援を行なうことです。
2年半後には中四国本部に異動し、そこでも最初はワインのマーケティングを行なっていたのですが、半年後からはビールを担当するようになりました。部門名はマーケティングですが、実際にはエリア全体の販促を統括するなど幅広い業務を行なっていました。入社して日が浅い立場ながら、経験が豊富な営業の部長と売上予算のすり合わせを行なう、といった業務も責務に含まれるため、非常に良い経験だったと思います。
昔からビールの会社のマーケティングはプッシュ型の広告宣伝で押していく手法がメインでしたが、今はコンテンツマーケティングでストーリーを伝え、お客様にファンになっていただく、というプル型にどんどん変わってきていると感じます。一方でワインは予算も少ないため、昔からプル型でコンテンツを語るというマーケティング手法が主でした。
お客様にとって、ビールは比較的わかりやすく、店頭での回転も速いんです。ところがワインは要説明商品であり、棚に置いたからといって直ちに売れる訳ではありません。このため、お店の棚に置いてもらう施策と、置いてもらった商品が売れるための施策、この両方を丁寧に考える必要があります。当時はこうした差異を意識していた訳ではありませんが、ワインで学んだきめ細かなマーケティングがビールにも活きていると感じています。
ビールを取り巻く状況は楽観視できません。そもそも飲酒人口が減っており、その中で新ジャンル(ビール風味のアルコール飲料)や、RTD(”ready to drink”、チューハイやカクテルなどを指す)といった商品にどんどん市場を奪われています。その中でいかにビールを選んでもらうかを考えなければなりません。
昔は「乾杯はまずビールから」が当たり前でしたが、今は「なぜビールなのか」から正しく訴えていく必要があります。その上で、さらに「ヱビス」や「黒ラベル」を選んでいただくためのストーリーや施策を常に実施しています。
そういった施策を主に担当するのは各商品のブランドマネージャーですが、私たちは専門部隊として協業し、お客様個人とどのようにコミュニケートするのかという手法を設計し、デジタルもフル活用し実行することがミッションです。

全国販売網を展開する企業における
マーケティングの課題とは

私のキャリアに話を戻すと、2013年からは流通統括部と呼ぶ全国の地区マーケティングを統括している本社部門に異動しました。それまで地区側から本社へ対して様々な要求を上げていた立場から、逆にそれらを本社の人間として受ける側へ回りました。
ある程度の会社の規模になると、各地区の現場で営業や販売を行なっている社員と、本社との間にはギャップが生じます。その距離を埋めるのは容易ではなく、私は両方を経験した立場ではありますが、日々そのギャップを意識しながら仕事をしています。
本社側ではブランディングやマーケティングファネル、バリューチェーンなど全体を俯瞰して施策を組み立てていますが、地区の販売側にいるとどうしても全体像が見えづらいため、それを如何に分かりやすく伝えて納得してもらうかが重要になります。ましてや新しいデジタル施策となると尚更です。
施策が複雑すぎたり説明が詳細すぎると、難易度が上がりなかなか理解されませんし、一方で説明を省いてもやはり理解がされず商談に使ってもらえないため、そのバランスは非常に難しいところです。ただし根底で重要なのは施策の目的をしっかりと理解し、その取り組みの意義を自ら感じてもらうことだと思っています。そのためには、時間をかけて話し合うことも重要だと感じています。
ここ3年ほどは本社マーケティング開発部の一員として、世の中のデジタルシフトに対応するため、ここ数年で飛躍的に増大した「入手可能なデータ」を専門的に取り扱い、マーケティングに活かす業務を行なっております。

  • 個客との関係性を
    より良いものにするための
    マーケティングを
    行うことが求められます。

  • 私たちはBtoBtoCの企業であるため、長年直接相対するのはお店や飲食店といった事業者であり、エンドユーザーとコミュニケーションをとる機会はありませんでしたが、その障壁がデジタル化やオウンドメディア、ソーシャルメディアによって取り払われました。
    その結果としてこれまでの「顧客」が個人個人の「個客」に変わり、そういった個客との関係性をより良いものするためのマーケティングを行うことが求められます。私はその中でも特にオンライン、オフライン問わずデータを用いてそのミッションへ貢献する役割を担っています。

POSデータの分析などはこういった部署ができる前から行なっていましたが、POSだけのデータで見えるのはモノの動きに限られています。モノを買っているヒトの方はどうなのか、という個客視点での分析ができるようになったのはようやく最近になってからです。

「これをやっておけば大丈夫」という
施策は存在しない

今とりわけ力を入れているのはオフラインの行動捕捉です。
BtoBtoC企業は基本的にコンバージョンデータを得ることはできません。小売店側がそれを持っている場合もありますが、基本的にそのデータを入手するのは困難です。ましてや飲食店になると不可能と言っても過言ではありません。飲食店でサッポロのビールを飲んでくれた方は膨大な数いらっしゃると思いますが、そのほとんどを追うことができていません。

  • 個客による
    購買の意思決定は、
    店頭で商品を手に取った
    数秒の間に行われます。

  • また、同じ業界のどの会社にも当てはまることですが、飲料は車や保険と違い、インターネット上で検討される商品でもありません。個客による購買の意思決定は、店頭で商品を手に取った数秒の間に行われます。
    こういった背景から、オンラインのユーザー行動だけであれば、どれだけ分析しても意味はあまりないと考え、少しでも非デジタルのデータを取得するため試行錯誤を繰り返しています。

まだまだ理想には程遠い状況ではありますが、広告と売上の相関性など以前は完全にブラックボックスだったものが、少しずつ答え合わせだけでもできるようになってきているとは感じています。
一方でデータに全幅の信頼を寄せて良い、というわけでもありません。例えば好きなビールの銘柄を調査し、ヱビスを一番に挙げていただいた方が、実購買ではあまり買っておらず新ジャンルを多く飲んでいることもあります。一方で、実際にサッポロのビールを買って飲んでいる方だけに調査を行なったにも関わらず「一度も飲んだことがない」と回答する層も一定数います。
また一定の期間をとって、期間内におけるビール購入量のうち50%以上をサッポロの商品が占めている層をサッポロの主飲用者と定義し、どのブランドも50%に満たない場合は「買い回り層」とセグメントして調査をしたこともありますが、「買い回り層」に所属する方は、それこそ新商品が出れば何でも買うわけです。もちろん他方で価格だけで購入を決める層もいます。
分析をすればするほど、「これをやっておけば大丈夫」という施策は存在しないのだということを痛感します。デジタルであれば、クリエイティブをユーザーによって小刻みに変え、その結果からユーザーを再度まとめなおし、またアプローチを変える、ということを繰り返します。
一方であまりに細分化したセグメントにアプローチし続けることも現実的ではないので、細分化した後に現実的なボリュームにまとめ直す必要があります。
どれだけアプローチしても態度変容を起こさず、ファン化しない層というのもあります。そういったユーザーもマスアプローチをして初動の売上インパクトを作る上では欠かせなかったりしますので、割り切ってコミュニケーションを行います。
飲料はどちらかというと低関与商材ですが、その一方でブランディングに影響される層も多くおり、また店頭で10円安いことで購買意思決定をする層もいるため、すべてに対応するには割り切りも重要です。

デジタルは単なる手段であり、目的ではない

入手可能なデータはいくらでもありますが、私個人としては、それをビジネスに役にたつかという視点で取捨選択するための嗅覚をもっと身につけなければと思っています。
また、私は過去に実施したことがない新しい取り組みを社内で提案する立場にあります。社内の様々なステイクホルダーは、最初に総論では賛成しても、具体的な施策に落とし込んでいくら予算を割くかというタイミングになると、そこから前に進まなくなるということが往々にしてあります。各商品ブランドを管轄する事業部門の立場からすると、すべての販促費は売上に直結する必要があるので、それも理解する必要があります。
その場合、自分の部門で予算を割いて小さな成功例を作り、それを元に会話をすれば、飛躍的に相手の理解度は高まります。このため、如何に柔軟にトライアルができるか、という環境を確保することが重要です。
よく聞く話ですが、デジタル部門は「出島」などと呼ばれ、それを担当している人間だけが理解し実行しているが、周りから見るとよく分からないという扱いをされることがあります。なぜかマーケティング全体から切り取られてデジタルという専門分野があたかも存在するように語られるのです。
本来マーケティング全体からすればデジタルは単なる手段ですから、切り取られてしまったデジタルを、一つの手段という元の場所に再セットするような意識合わせを、本社の人間だけでなく、全国各地の営業担当者とも行なっています。営業担当者向けには勉強会を開いて啓蒙活動も実施しています。

マーケティングの成功例となった
99.99(フォーナイン)

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  • 昨年の8月に発売した99.99(フォーナイン)では、私たちのチームでハウスエージェンシーの立場となり、広報による発表会見からデジタル施策まで一気通貫したコミュニケーションプランを立案、実行しました。ブランド部門からの予算を確保し、社内の様々な部門を横断した上で、ターゲットとする個客をプランの主語において如何に商品を正しく理解し、購入していただくかという点にフォーカスをすることができました。
    売上でも非常に好調に伸びており、販売開始後の第三者による調査ではデジタル領域における99.99の認知度が過去の商品に比べて大きく増加し、一定の成果を挙げることができたと感じています。

そこで得た知見もやりっ放しにせず定量的に分析して社内に共有し、これから発売する商品のマーケティング活動において再現性のある施策パッケージとして展開していきたいと考えています。

ファネルワンで課題を明確にして、
ベンダーと効率的に対話する

私の部署が抱えているミッションの特性として、デジタルっぽいものは何でもやる、あるいはやらなければなりません。そうすると膨大な数のベンダーさんを一つ一つ調べて、気になれば話を直接聞き、やっぱり違うと感じてまたリサーチに戻るといったことを何回も繰り返す必要がありました。
ブランドマネージャーのポジションであれば専属の代理店が付いていますが、私のようなデジタル部門にはそういう存在がないため、ベンダーと直接話す機会は意外と多いです。 私たちは消費者向けの製品を出し、テレビCMもやっているため、一般的な知名度は高い企業の部類に入りますが、それでも実際にどんな商品を出しているか知らず、調べてくることもないベンダーの営業さんも残念ながらいらっしゃいます。
私たちもベンダーさんと直接お話するときは、そのベンダーの情報を集めて、どういった課題解決がお願いできそうか、など事前に考えた上で臨んでいますので、ベンダーさんの側も下調べや準備が整っていれば、より有意義で効率的な対話ができると考えています。
その一方で自分たちに対しては、より課題が明確なオリエンをしなければならないと常に心がけています。課題がぼやけていると、受け取る提案の質もそれに比例してぼやけてしまい、それはメーカー側の責任です。言いたいことややりたいことはたくさんありますが、オリエンシートに落とし込みそれらに優先順位を設け、課題を絞り込むといったことをしています。

  • Funnel1なら
    本当にビジネスができる
    会社のみに
    アプローチできます。

  • ファネルワンを使うことで、オンラインで一括に対象ベンダーのオリエンができ、初回のレスポンスを見た上で、本当にビジネスができそうな会社さんへのみアプローチができる、という仕組みは画期的だと感じています。
    特に女性のマーケターで家庭や子供がいる方だと、際限なく残業できるわけではないため、必然的に時間にシビアになります。そういった方にとっても役に立つ仕組みではないかと思います。

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