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内閣府が打ち出す「Society5.0」を実現する最先端技術の1つとして期待される、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)。マイクロソフトが開発した「Microsoft HoloLens」に代表されるMR(複合現実)なども含め、これらのテクノロジーはXRとも呼ばれるようになりました。
また、エンターテイメント先行だったVRも、少しずつビジネス活用が広がっています。
とくに、マーケティング領域でVR活用が進むのは、不動産と観光業です。物件をVRで見せたり、ホテルの室内を360度動画で紹介するなど、画像よりも情報量を多く届けられることがポイントです。また、展示会やイベントにおけるVRを用いたプロモーションは、まだまだ注目の的。コンテンツを工夫することで、サービスや製品の理解をより深く促すことができます。
ファネルワンでは、VR業界をリードする企業に取材を行い、VRのマーケティング活用のポイントや事例をまとめました。
まず、VRのビジネス活用が進む分野として挙げられるのは、研修・学習領域です。VRの特長である「没入感のある体験」を生かしたVRプログラムが、実用化されています。VRによる擬似体験型トレーニングは、マニュアルを読んだり、動画を視聴したりの受け身型よりも「自分ごと化」しやすく、深い理解に繋がると考えられています。
たとえば、認知症を体験できる「VR認知症」で有名な、株式会社シルバーウッド。
同社の本事業は、建設業とそのノウハウを生かした介護サービス付き高齢者向け住宅の開発・運営です。高齢化に伴い、認知症も社会課題となっていますが、その理解は十分とは言えません。そこで同社は、「認知症を体験することが、症状への理解を深めるのではないか」と考え、「VR認知症」を開発しました。行政や自治体、医療介護関係者からの研修依頼が絶えず、すでに体験者は40,000人を超えているそうです。
そして、2018年からは「他人事で見ていたことも、一人称で体験すると全く違って見える(VR Angel Shift)」をキーワードに、コンテンツのテーマをLGBTやワーキングマザー、発達障害などに広げ、主に企業向けのダイバーシティ推進プログラムとして展開しています。
企業からは、ダイバーシティ研修や管理職研修でのニーズが高く、「今までと全く違う研修で驚いた」「今日から自分が何をすればいいのかわかった」「100冊の本を読むより勉強になった」などの感想が寄せられていると言います。
シルバーウッド VR事業部・黒田麻衣子さんによると、VRコンテンツを制作するときは、「VRで表現する意味があるのか」「VRならではの価値をどのように作り出すか」ということを意識しているそうです。テーマに沿って、当事者の方々へ丁寧にインタビューを重ね、コンテンツを作り上げています。
とくに、医療・介護領域のコンテンツについては、海外からの関心も高く、グローバル展開も視野に入れているとのこと。また、企業が「経営戦略」として取り組むほど重要視する「ダイバーシティ・インクルージョン」をテーマとしたコンテンツも、充実させたいと考えています。
続いては、アメリカのウォルマートの事例をご紹介します。
従業員トレーニングにVRコンテンツを導入し、新しいスキルの習得や、混雑日のシミュレーションにVRを活用しています。このプロジェクトに参加しているヘッドマウントディスプレイ(以下、HMD)のメーカー・Oculusのサイトによると、「他のトレーニング方法に比べて満足度が30%高い」と報告されています。VRによる研修・学習は、トレーニングに伴う人的リソースやコストの削減にも繋がるとされ、注目を集めています。
顧客体験を起点とした、プロダクトやサービスが求められる現代。
「没入感のある体験」を生み出すVRは、今後も様々な分野で活用が進むことでしょう。では、マーケティング領域におけるVR活用は、どのような事例があるのでしょうか。
「VRの周辺技術は今後も進化していきます。ビジネスにも活用できる環境や体制が整ったところです」と語るのは、株式会社360Channelの代表・中島健登氏。同社は、日本最大級のVRコンテンツプラットフォーム「360Channel」を運営する、VR動画制作・配信会社です。
エンターテイメントを中心に、2,000本以上のVRコンテンツを配信する360Channelには、ビジネスユースのVRコンテンツも並びます。その多くは、「ANA機体工場見学」や「東京おもちゃ美術館」、住友商事が手がける物流施設「SOSiLA」の「SOSiLA海老名」など、施設紹介のコンテンツ。360ChannelのVRコンテンツは、PlaystationVRやOculus Riftなど、5つのVRデバイスに対応しており、それらを通して立体的な世界を体験することができます。
さらに360Channelは、VRのビジネス活用を推進するべく、VRコンテンツの企画から制作・配信・効果測定までトータルに支援する「VR PARTNERS」をスタートしました。
とくに強みとなるのが、キャンペーンの効果測定ができること。たとえばイベント時に簡易型VRゴーグルを配布し、360ChannelでVRコンテンツを配信。アクセス数や視聴数・視聴時間などを測定することが可能です。また、スマートフォン向けゲームアプリを展開するコロプラのグループ企業である同社は、映像や3Dモデルの制作、システム開発など、社内外に技術支援のネットワークを持ちます。企業の「VRを取り入れたキャンペーンに挑戦したい」を、全面的にサポートする体制が揃っているのです。
そんなVR PARTNERSのソリューションを最大限生かした事例のひとつが、2018年7月に行われた、印刷業界最大の展示会『IGAS2018 (International Graphic Arts Show)』における、ハイデルベルグ・ジャパン株式会社の展示です。
本件を担当したVR PARTNERSのエグゼクティブ・プロデューサー小松恵司氏によると、ハイデルベルグ社は従来の実機を展示する方法に課題を抱えていました。それは、展示による製品理解の限界と、大型の実機設置にかかるリソースやコストへの懸念でした。そこで、VRに可能性を感じたハイデルベルグ社は、360Channelに相談。360Channelは、VR映像の制作とイベント運営を手がけたのです。
「イベント来場者は、HMDを装着し視聴することで、目の前に印刷機があるような体験をします。そしてVR映像には、自分が小さくなって印刷機の中を旅しながら、世界最先端の産業用印刷の技術を体験するストーリーを設計しました。VRコンテンツはただ見せるだけでなく、体験者にミッションを付与したりストーリーを作るなど、楽しむ要素を盛り込むことが大切です」(小松氏)
しかし、イベントでのVR導入には、とある普遍的な問題がありました。一般的にVRは、単独での体験となります。それゆえ、体験人数に上限があったのです。この問題に360Channelは、複数のHMDを同時視聴できるシステム開発で対応。1度の上映で、最大45人分のVR体験機会を生み出しました。イベント期間中、約3,000人が体験し、商談への後押しになったといいます。
また、この取り組みは各メディアでも取り上げられ、パブリシティとして高い副次効果もありました。さらに、言語の影響が少ない「体験」はドイツ本社からも評価され、今後のグローバル展開においても、本取り組みの実施が検討されています。
「Oculus GOのように、ハイスペックで購入しやすい価格帯のHMDが登場しています。ここからは、コンテンツの内容が重要です。VRを用いたプロモーション設計は、どのような目的を果たしたいか?がポイント。たとえば、VR体験者によるアクションを促したいのならば、それを最大限引き出せるVRコンテンツの企画が重要です」(中島氏)
続いては、不動産や観光業界でのVR活用事例をご紹介します。これらの業界では、VRの活用実績が多い傾向にあり、その共通するポイントに「現地へ行かなければ体験できないサービス」を取り扱っている点が挙げられます。部屋の内覧や旅行先を360°動画で見渡すことで、「住みたい、行ってみたい」という感情を訴求しているのです。
LIFE STYLE株式会社は、Googleストリートビュー認定フォトグラファーとして、店舗・施設内を360°のパノラマ画像で表現するGoogleストリートビューを1,000社以上に導入してきました。同社は、この知見を生かした、360°画像・360°動画を用いたプロモーションを強みとしています。
代表の永田雅裕氏は、VRの役割を「タイムマシンと、どこでもドア」に例えます。LIFE STYLEが注力するのは、「どこでもドア」。「遠く離れた場所を体験するVRを軸に、平面情報を360°立体化し、情報量を増やしたい」と考えているのです。
たとえば、2017年に手がけた沖縄県の沖縄グローバル観光ブランドBe. Okinawaプロジェクトでは、キャペーンWebサイトの360°パノラマビューを担当。沖縄の魅力をまるごと感じられる、美しいVRコンテンツを制作しました。
また、星野リゾートの「星のやバリ」(インドネシア・バリ島)開業プレス発表会(2017年)では、「星のやバリ」のVR内覧体験用の360°動画制作にも関わりました。サムスンのVRデバイス「Galaxy Gear VR」を着用して見るVRの世界は、「本当に、バリにいるみたい」と絶賛されたそう。
本コンテンツの撮影は、現地で4日間に渡って行われました。バリの自然をシンプルに、そして鮮明に表現するための特別な機材を投入し、音声も別収録しています。3D空間やこの世に存在しない世界を表現するVRコンテンツとは異なり、実写型の360°VRコンテンツはとてもシンプル。しかし、その美しさやリアルさを最大限に表現すると、「行ってみたい」と深い理解や行動を促すのです。
ここで、新しい結婚式場のプロモーションを行いたい場合、どのようなVR活用ができるか、考えてみましょう。結婚式を検討するカップルは、一般的に複数の式場を見学し、比較検討します。永田氏ならば、どのような企画をするのでしょうか。
「まずライトな内容としては、施設内をストリートビューのように歩いて進む、VRコンテンツはいかがでしょう。さらに深い体験を届けたいならば、ストーリーを盛り込んだVRコンテンツがオススメです。たとえば、新郎新婦目線で準備から挙式、披露宴までの流れを体験できるコンテンツは、面白いと思います」(永田氏)
VRコンテンツ制作だけでなく、LP制作や流入経路の設計まで、LIFE STYLEではマーケティング全般を含めた提案も可能です。まずは「VRで何を実現したいか?」の目的をヒアリングし、予算に応じた制作を行います。
またLIFE STYLEは、2017年にリコーと業務提携し、360°カメラ「RICHO THETA」による360°コンテンツの撮影・オーサリングサービスを提供。合わせて、企業がVRコンテンツをを内製できるソリューションの開発も行っています。さらに、VRクリエイターの育成や簡単にVRコンテンツの作成ができるツール「Flic360Make」事業も進めています。このツールを活用すれば、「自社ウェブサイトに、オフィス内を紹介するVRコンテンツを掲載」も、簡単にできるといいます。
「VRを特別なことではなく、誰でも簡単に作成できる世界にしたいんです。たとえばホテルの予約をするとき、部屋中を見回せるVRコンテンツを参考にするといったことが、当たり前になっていくと考えています」(永田氏)
VR元年と言われたのは、2016年のことでした。当時の業界予想とは異なり、一般層へのVRデバイスの普及は、まだこれからといったところ。現在のVRユーザーは、情報感度が高く、エンターテイメントに関心の高い層が占めています。しかし、確実にVRのビジネス活用は進んでいます。2020年以降、5G環境が整えば、VRはより身近な存在となっているでしょう。近い将来、どのようなタイプのVRデバイスが覇権を握るかが、注目されています。
そして、VRそのものの認知は広がり、「VRを取り入れました」だけでは話題性が弱くなっていることも事実。あくまでVRは手段として考え、マーケティング課題の解決にVRが最適か?をポイントにした、マーケティング・コミュニケーションの設計が必要です。
ファネルワンでは、様々な知見やテクノロジーを持つVR制作会社・ベンダーが登録しています。ぜひ、VRにまつわる課題や疑問を相談してみませんか。
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