VRのビジネス活用を考えるとき、まずは「VRとはどんなものか?」と体験してみたいですよね。VRの体験には、専用のコンテンツとヘッドマウントディスプレイ(以後、HMD)が必要ですが、気軽に、そしてVRがもたらす没入感を深く体験したいなら、アミューズメント施設内のVRアトラクションはいかがでしょう。VRアトラクション専門の施設も多数登場しています。
株式会社ハシラスは、アミューズメント施設用のオリジナルVRアトラクションの開発で知られる企業です。同社の強みは、ソフトウェアだけでなくVR体感ハードウェアも自社開発し、クオリティの高いVRコンテンツをワンストップで制作できること。イベントや施設向けのVRアトラクションの企画・制作から、販売・レンタルと幅広く手がけています。
視覚や聴覚だけでなく、体の動きや触覚など、五感と連動した体験を生み出し、より深い没入感を提供する、ハシラスのVR開発。エンターテイメント分野だけでなく、企業の研究開発のためのシミュレーター開発などにも協力しています。今回は、ハシラス代表取締役社長の安藤晃弘氏に、施設型VR市場の視点から見たVRの現状と可能性、そしてハシラスの今後の展望についてうかがいました。
ー まずは、日本の施設型VR市場の現状について教えてください。
株式会社ハシラス 代表取締役社長・安藤晃弘氏(以下、敬称略):
日本における施設型VR市場は、比較的明るいと思います。日本の作る施設型VRアトラクションはクオリティが高く、海外からの評価と需要がある話をよく聞きますね。また国策として、VRを含めた先端技術に注力していく方針が出ています。内閣府によるSociety5.0では、「明日の日本を支える観光ビジョン」として、観光分野へのVR活用が提言されています。これから東京オリンピックや大阪万博が開催され、カジノ法案なども語られる中で、インバウンド観光客などに向けてVRは活用されていくでしょう。そして、そこには国内消費の喚起にも繋げたいという狙いがあると考えています。
エンターテイメント市場から見ても、施設型VRは大きな存在感があり、実例も多くなっています。近年、アミューズメント施設には様々な新しいタイプのアクティビティが登場していますが、その中でも目新しいVRは集客ができているのではないでしょうか。
ー ハシラスは、アミューズメント施設向けのVRアトラクションを得意とされますが、企業のマーケティングやプロモーションにも関わっているそうですね。
安藤:
実績としては、ヤマハ発動機様の3輪バイク「Tricity(トリシティ)」のVRコンテンツを担当しました。実際にTricityに乗り、VRの運転体験をしながらゲームを楽しむアトラクションですが、Tricityの機能特性を、実際に体験する人だけでなく、見ている人にも伝わる設計にしました。Tricityの前輪は2輪のリーニングマルチホイールで、タイヤを倒して運転したときも、車体が水平をキープするんです。VRでの体験と、そうした実車の挙動を連動させることで、周囲で見ている人にも「こんなふうにホイールが曲がるのだ」と分かるようになっています。
また、今年の3月8日から4月末まで、VR体験ができるカフェ「VR Game&Cafe Bar VREX(ヴィレックス)」と、日本ファルコム様のRPGゲーム「英雄伝説 閃の軌跡」シリーズがコラボレーションし、そのVRコンテンツを開発しました。VREX内のVRゲームの中で、体験者が「閃の軌跡」のキャラクターに扮して遊ぶという、IPコンテンツのコラボとしてはなかなかない体験を提供できました。
ー VRアトラクションを通して、商品の特長や面白さをより深く体験し、理解や関心を引きだす仕組みなのですね。
安藤:
VRの特性を活かした形での企業とのコラボレーションは、進めていきたい領域です。五感を伴うVR体験は、そうでないVRとは別物で、非常に没入感が高くなります。そうした体験を生み出せるというハシラスのアドバンテージを、商品やIPのプロモーションにも活用していただけたらと思います。
ー VR市場の広がりを考えるとき、まずHMDの普及が挙げられます。VR初期に比べ、HMDの性能は高まり、価格も手ごろになった印象はありますが、一般層への普及を後押しする更なるきっかけが期待されるところです。施設型VRの広がりは、いかがでしょう。
安藤:
VRはデバイスも技術も進化の途中であり、施設型VRもまだ過渡期です。先ほどもお話ししましたが、市場の捉え方として、短期的には目新しさで売れる良さがあります。一方、長期的に「勝てる」設計のVRアトラクション、そして技術の進化を見据えた上で、どのような施設にしていくかのプランニングがなければ、淘汰されていくと考えています。
ー 市場からの期待に答えるために、施設型VRはどのような課題を改善しなくてはならないとお考えですか。
安藤:
まずは、人件費の問題があります。通常のゲームセンターやボーリング場などは、アテンドスタッフの配置が少なくて済みます。一方VRアトラクションは、HMDの装着や遊び方のサポートを行うため、アトラクションごとにスタッフが必要です。ですから、収益率や回転率が悪くなってしまいます。
そして、誘引力や“感染力”が弱いことも挙げられます。VRアトラクションは、体験前に内容が想像しきれないという難しさがあり、体験する前後の印象値があまりにも違いすぎるのです。体験前の「こんなのに500円も払えないよ」と、体験後の「すごい!千円でも安い!」との間のギャップを、どのようにして埋めるかが今直面している課題です。
ー 体験しなければ分からないという点が、VRの良さであり難しさでもある。
安藤:
数あるエンターテイメントの中からVRが選ばれるには、どうしたらよいか。施設型VRは、コンテンツを面白くする努力だけでなく、その収益構造を改革して、エコシステムを形成しなければなりません。そこでハシラスでは、省スペースで高回転・高収益性、リクープの早期実現など、様々な手を打って、収益構造の改革に挑んでいるところです。
ー ハシラスでは、どのようにして施設型VRの課題解決に取り組んでいるのでしょうか。
安藤:
まず誘引力を上げるために、見た目のインパクトに工夫を凝らしています。たとえば池袋サンシャインシティの「TOKYO弾丸フライト」は、人間大砲型の筐体(きょうたい)です。見た目で興味を引くのはもちろん、「大砲で打ち出されて、池袋の街並みを飛び回りますよ」と聞いたら、「やってみたい!」と思いますよね。また、IPコンテンツも誘引導線が強いですね。ソニー・ミュージックソリューションズ様とハシラスで共同開発している『VRキャプテン翼 燃えよストライカー』や『VR進撃の巨人 THE HUMAN RACE』など、IPコンテンツを活用したアトラクション開発も行っています。
ー 著名なIPコンテンツならば、「そのコンテンツの世界で遊びたい」という気持ちを生みだすことができますね。
安藤:
人件費やリソースの課題に対しては、アテンドスタッフを必要としないアトラクションを開発しています。「Urban Coaster」は、VRジェットコースターのアトラクションですが、コインを投入後、タッチパネル上で体験モードを選択し、HMDを手で持って顔に当てるだけで体験が可能です。
「VRの中のテーマパーク」をコンセプトとした「オルタランド」の開発も進めています。オルタランドでは、「フリーロームVR」という、複数人が広いスペース内を自由に動き回れるVRを採用しています。体験者は、VR世界の中で複数種類のアトラクションを、シームレスに楽しむことができます。アトラクションごとにHMDの付け外しが発生せず、転換時間やアテンド人員を少なくできるのです。現状では、およそ25人の体験者あたり、3人程度のスタッフで対応する想定ですね。
ー 同時体験の人数を増やすだけでなく、少数のアテンドスタッフで対応できると。リソース不足の課題が、大きく解決されますね。
ー 最後に、ハシラスの今後の展望をお聞かせください。
安藤:
VR開発に必要なノウハウや技術があり、ハードとソフトを駆使して没入的なエンターテイメントの創出に取り組んできたハシラスだからこそ、生み出せる価値を提供していきます。
短期的スパンとしては、コンテンツの販売やレンタル、受託開発などと並行して、自主的な研究開発を続けつつ、自社運営の店舗を持ちたいと考えています。自社運営店舗で、スタッフの教育や立地も含めた施設型VRの勝ち筋を見つけ、それを元にしたトータルソリューションをお客様に提供したいという構想です。また、築きあげた成功モデルを、フランチャイジーなどで全世界に展開できたらとも思います。
そして長期的な展望は、VR的な体験がもたらす価値を、より広く追求することです。
「面白い演出を実行するコアの力」があれば、現在のHMDを装着して楽しむVRという形式に、捕らわれる必要はありません。たとえば、HMDを用いず、大画面ディスプレイと体験者の位置トラッキングを組み合わせた体験装置を、企画・開発中です。
ハシラスには、バーチャルで面白い体験をさせるという軸があります。新しい遊びや社会に役立つことを、没入的な体験を通じて作っていくことが、ハシラスのビジョンとミッションです。新しいアイディアで変な物を継続的に作っていきたいです。
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